今週はもう節分。
ミカンの季節もそろそろ終わりですね。 テーブルの上のミカンを眺めていたら ふと、昔読んだ芥川龍之介の「蜜柑」という短編の ことを思い出しました。 ちょっと大袈裟ですが、この小さな作品が 純文学などあまり読んだことのなかった私に 文学の原体験ともいうべき感動をもたらせてくれたのです。 物語は・・・ 主人公の「私」は言いようのない疲労と倦怠を抱えて 二等客車に乗り発車を待っていました。 どんより暗いプラットホームの景色は 主人公の陰鬱な心の内そのもの。 発車の笛が鳴ったと同時に、けたたましい下駄の音が聞こえて 十三、四の見窄らしい小娘が「私」の前の席に乗ってくるのです。 膝の上には風呂敷包み抱え、その霜焼けの手には 三等の切符を握って・・・ 下品な顔立ちと不潔な身なり、そして二等と三等の区別さえ わからない愚純な心を「私」は軽蔑します。 気を逸らそうと夕刊を広げてみたけれど 世間はあまりに平凡な出来事ばかり。 田舎者の小娘と平凡な記事の夕刊と・・・ これが退屈な人生の象徴でなくてなんであろう。 一切がくだらなく思えて、窓枠に頭を齎せてうつらうつら。 ふと気が付くと、いつの間にか小娘は「私」の隣に席を移して しきりに窓を開けようとしているではありませんか。 汽車がトンネルになだれ込むと同時に窓が開きます。 煤を溶かしたようなどす黒い煙に激しく咳き込む「私」 それでも窓から外へ首を伸ばして前を見てる小娘。 トンネルを抜けた時、状況は一転します。 貧しい町はずれの踏切の柵の向こうに 背が低く貧しい身なり3人の男の子が立っていて、 彼らは皆で汽車が通り過ぎるのを仰ぎ見ながら 意味のわからない喚声をほとばしらせていたのです。 その瞬間、子供らの上に空から暖かな日の色に染まった 蜜柑が五つ六つ・・・ 「私」は刹那に一切を了解するのです。 奉公に行く姉が弟たちの見送りを労っているのだと。 疲労と倦怠と退屈な人生の中の一瞬のきらめき。 車窓に通り過ぎた一瞬の出来事が心を解き放ちます。 重苦しいモノトーンの世界と 鮮やかな蜜柑の色の対比の素晴らしさ。 奉公に行く貧しい娘の悲しさがより物語を深く美しくして、 何度読み返しても飽きることがありません。 文庫本の短編集の中の6ページほどの作品なのですが、 情景と心情の描写が本当によく書けていて、 やっぱり芥川龍之介って凄いな、 日本語って美しいな、 これぞ純文学、ホント透き通ってるわと、 たまにはまじめに本を読まなくてはと思ったのでした。 小説の蜜柑のイメージにはほど遠い写真でごめんなさい。 子供の頃はバナナもそうですが お正月には蜜柑ひとつが贅沢でした。 そんなことを思い浮かべながら今季最後の蜜柑をいただきました。 皆様もビタミンCを補給して寒い冬を乗り切って下さいね。 ☆ ☆ ☆ ランキングの応援に駆けつけてくれた ブログ「猫日和。キルト日和。」でおなじみのふーくん。 ふーくんバナーをクリックすると きっとあなたにもいいことが・・・ 応援ありがとうございます。
by ishikoro-b
| 2012-01-29 23:49
| 文学
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