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石ころコロコロ

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映画 最初の人間

1960年、自動車事故により46歳の若さでで急逝した
アルベール・カミュの未完の自伝的小説の映画化「最初の人間」を
DVDで鑑賞しました。一昨年映画館でも観たので2度目です。
カミュと言えば本棚の隅っこに「異邦人」が眠っていますが
カミュ自身の投影である小説家ジャック・コルムリを演じたのが
「クリクリのいた夏」からのお気に入りのフランス人俳優
ジャック・ガンブランですから見逃すわけにはいきません。
ジャック・ガンブランのもの静かで知的な佇まいは
カミュのイメージにぴったり。
回想シーンで少年時代を演じる男の子も魅力的。
その他のキャスティングも素晴らしいのです。
アルジェリアの空と海と土・・・美しい映像に人間の心情が
上手く重ねられて、その表現は文学的でさえありました。

フランス人でありアルジェリア人でもあったカミュ。
彼の描く「不条理」の現実は今日の世界に通じるものがあり
ひとりの小説家の苦悩や平和への願いが遺言のごとく
スクリーンから静かに熱く伝わってくるのでした。

ネタバレ注意!
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映画はフランスからの独立紛争に揺れるアルジェリアが舞台です。
1957年の夏、著名な作家ジャック・コルムリは大学での講演の
依頼もあって、今も老いた母がひとり暮らす生まれ育った地
アルジェリアへ帰郷します。
空港に降り立つとすぐに講演会場へ。
演台に立ったジャックは、アルジェリア人とフランス人の共存と
非暴力の理念を説くのですが、会場はヤジと怒号の嵐。
ジャックは裏切り者と激しく糾弾されてしまいます。
そんな中ジャックは「作家の義務とは、歴史を作る側ではなく
歴史を生きる側に身を置くこと」と静かにスピーチするのでした。

実家へ帰るのは危険との忠告にも耳を貸さず母の待つ家に帰るジャック。
その昔、祖母と母、叔父と一緒に暮らした小さなアパートに
母は今もひとり、慎ましく暮らしていました。
そんな母に「いつまでもきれいだね」と声をかけるジャック。
再会を喜ぶふたりに地中海の美しい陽光が降り注ぐ美しいシーンでした。
父は彼が生まれてまもなく第一次世界大戦で戦死。
父の存在を知らずに育ったジャックは、実家に残された父の写真を
見つめながら、いつしか少年の頃の思い出が脳裏に甦るのでした。
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祖母は独裁者のごとく厳格な人で、家の中の空気は
いつも張りつめていました。
お仕置き棒でジャックを折檻するシーンは見ている方も
身が縮まる思いですが、そんな祖母に連れられて行ったサイレント映画では
文字の読めない祖母に通訳するジャックの微笑ましいシーンも描かれます。

病院の下働きをしながら一家を支えてくれた優しい母。
病院で働く母を訪ねたジャックはベンチで本を読みながら
同じく母の仕事が終わるのを待っている男性に気付いたりします。
恋人なのか友人なのか、映画では見逃すほどのシーンですが
ジャックが少し大人になることを予感させる素敵なシーンです。
母もまた読み書きができませんでしたが
頭のいい子の義務はこの街を出ることだ、と広い世界へ
ジャックの背中を押してくれたのも母でした。

母の弟である叔父のこともジャックは大好きでした。
たばこの吸い方や父のことも教えてくれた気のいい叔父。
ジャックは学費を稼ぐため叔父の勤める印刷工場で働きます。
夜明け前に家を出る叔父とジャック。
ふたりの前に遺体を乗せた荷車を押す親子が通り過ぎていきます。
生と死、人生のすべてのテーマが凝縮されているような
悲しくも美しいシーンでした。
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貧しいながらも成績がよかったジャック。
子供は将来の大人の姿の萌芽を宿しているのだと
ジャックの才能を見抜き進学を薦めてくれたベルナール先生との出会い。
「神を信じる者も信じない者も好きになさい」と言ってくれた先生は
ジャックの第二の父的存在でした。

帰郷したジャックは身の危険を感じながらも
アラブ人居住区に足を運びます。
そこにはかつての級友ハムッドが住んでいました。
貧しくも誇り高く威厳のある表情は昔のままです。
ジャックがフランス人だというだけでケンカをふっかけられて
けれどなぜか憎めなかった小学校時代の思い出。
「我々に友情はなかった」とハムッドは当時を振り返りつつも
爆弾テロの共犯容疑で逮捕された息子アジズの無罪釈放を
ジャックに嘆願するのでした。

通りでは爆弾テロが起き一般市民が犠牲をなるのを
ジャックは目撃します。
そんな現実とは対照的に水着姿の少年ジャックが海岸の林の中を
抜けていく長回しの回想シーンが印象的でした。
人々が音楽やダンスを楽しんだり、木陰では母と
病院で会った男性が話をしていたり、それはジャックの思い描く
平和の心象風景だったのでしょうか。

アジズの無罪の証明のために政府機関に掛け合ったジャックでしたが
アジズは自ら死刑を受け入れるのでした。
アジズの死の知らせに、ジャックはラジオを通して
再び自分の理念を皆に呼びかけるのでした。

ラストの母とジャックが食卓を囲むシーンは
ずっとこの穏やかな時間が続けばいいのにと思わせるシーンですが
もしかしたら事故死した息子の幻覚のシーンだったのかもしれません。
ひとり残された母の姿が切ないです。
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未だ実現されない紛争のない世界・・・
民族や宗教、思想を乗り越えてお互いが共存しあえる世界をつくること。
どんな日常の些細な選択や行動でも、それが世界を変えていくことに
繋がると意識した時から、人は誰でもが「最初の人間」に
なれるような気がします。
乾いた大地に水が沁みわたっていくような素晴らしい作品でした。

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監督 : ジャンニ・アメリオ
脚本 : ジャンニ・アメリオ
原題 : Le premier homme
原作 : アルベール・カミュ
製作年/国 : 2011年 フランス・イタリア・アルジェリア合作
出演 : ジャック・ガンブラン/ジャック・コルムリ
    カトリーヌ・ソラ/1957年の母
    ドゥニ・ポダリデス/ベルナール先生
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by ishikoro-b | 2015-02-13 15:27 | 映画 | Comments(0)
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