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映画 フランスの思い出

梅雨の夜、こんな映画はいかがでしょう。
1987年のフランス映画、ジャン・ルー・ユベール監督作品
「フランスの思い出」をDVDで鑑賞しました。
私の大好き映画ベスト3に入る作品なのです。
フランス映画らしい創りというか、ハリウッド映画とは
やっぱり違うなととつくづく感じさせてくれる映画なのでした。
映画 フランスの思い出_a0223379_1765526.jpg

原題は「LE GRAND CHEMIN(ル・グラン・シュマン)」
「大通り」という意味だそうです。
1950年代のフランス、田園が広がる静かな村の大通りが
映画の舞台です。

道端に咲く花が風に揺れて、水色の大きなバスがやってきます。
お腹の大きいお母さんと「行くのはイヤだ」と
泣いて駄々をこねる甘えん坊の男の子が
グランシュマンのバス停に降り立ちました。

お母さんの出産のため、母の幼友達のマルセルの家に
預けられることになった9才の男の子ルイ。
お母さんはルイを残して、すぐ帰ってしまいました。
実はお母さんは別居中の夫と離婚の危機という大きな悩みを
抱えていたのです。ルイには内緒なのですが・・・

ルイの不安な夏休みが始まりました。
マルセルおばさんの家に着いてまず目にするのが
ウサギの皮を剥ぐシーン。
これはかなりの衝撃で直視には勇気がいります。
夜のごちそうとなるのですが、ルイには食べることができません。
マルセルおばさんは優しいけれど
マルセルの夫で木工職人のペロおじさんは
「ガキとウサギは甘やかさない」と凄みます。

隣家に住む一つ年上のマルティーヌは
扁平足を治すためいつも裸足。
座ったらいつもパンツ丸見えのお転婆でおませな女の子。
パリからやってきたルイを秘密監視塔に案内します。
そこは葉っぱが鬱蒼と茂った木の中にできた空間。
秘密監視塔から村の様子やお墓も見渡せました。
「埋葬を見るのが大好きなの、みんな大声で泣きわめくわ」
子供の遊びの中にも死のテーマがあって
あどけない子供の会話の中にも
人生の悲しみが込められていたりするのです。
秘密監視塔の葉っぱの間から顔を出すふたりが本当に可愛らしい。
何度観ても絵になるシーンです。

戸惑うルイの心を引き立ててくれたマルティーヌ。
大人たちの会話を盗み聞きした耳年増的知識をルイに教えたり
教会の屋根に上がってルイにオシッコさせたり
神父さんにスカート捲ってパンツを見せたり・・・
子供の感性をそのまま表現しているところも好感がもてます。

マルティーヌはルイを納屋へ誘います。
マルティーヌの姉と恋人のHシーンを覗きに行くのです。
納屋に向かって走るマルティーヌの鼻歌が
モーツァルトのアリアですから恐るべしフランスの子供!
この悪い子が、たまらなく可愛いのです。
映画公開当時、確かこの覗きのシーンが
ペーター佐藤さんのイラストで、ミスタードーナツの
パッケージに使われていたのも懐かしい。
映画 フランスの思い出_a0223379_18303951.jpg

少しずつ田舎の暮らしに慣れてきたルイの気がかりは
マルセルおばさんとベロおじさんの不仲でした。
実は、ふたりには無事生まれていればルイくらいの
子供を失った悲しみからずっと抜け出せないでいたのです。
酔いつぶれて帰って来ては暴れるペロ。
マルセルとベロの諍いをベッドの中で聞いて耳を塞ぐルイ。
大人の世界も大変なことを知ります。

でもペロおじさんは本当は見た目よりもずっと優しい人でした。
ルイとの男同士の会話や素敵なシーンがたくさんあります。
ルイがそっと手を伸ばし、ペロと手をつなぐ何気ない
シーンにさえ、込みあげてくるものがありました。
ペロは木工職人なので村に不幸があると棺桶も作ります。
棺桶の中に入ってペロの仕事を手伝うルイ。
なんだか棺桶が揺りかごのように見えるから不思議です。
悲しく、可笑しく、人間の生と死が描かれているのです。

そして一騒動もあったりして
生涯忘れることのない甘く切ないルイの夏休みは終わります。
お母さんは男の子を産んでルイを迎えにきました。
それぞれの淡々としたな別れのシーンも素敵です。
帰りのバス停には、ちょっぴり大人になったルイがいました。

ルイと過ごした日々はペロとマルセルの関係にも
変化をもたらしました。
ラストシーンが泣かせます。
これは大人の物語だったのだと気付かされます。
秋の訪れを感じさせる雨の中、ルイを見送ったマルセルが
ペロの仕事場に現れて・・・

自分の幼い頃の記憶を呼び覚まされるような一夏のきらめき。
人生、苦しいことや悲しいことがいっぱいあるけれど
それでも生きるっていいなと素直に感じさせてくれる
素晴らしい映画でした。

ルイ役は監督の実の息子のアントワーヌ・ユベール。
マルティーヌ役はヴァネッサ・ゲジ。
ふたりの子供らしい笑顔とナチュラルで瑞々しい演技は
本当に素晴らしかった。
マルセル役はアネモーヌ。
悲しみをこらえて必死で明るく生きようとする姿が素敵でした。
ペロ役はリシャール・ボーランジェ。
大酒飲みのどうしようもない男だけど、次第に内に秘めた
優しさが滲みでて観るものの心を深く揺さぶりました。

アントワーヌやヴァネッサは
今頃どんな大人になっているのでしょうね。

☆ ☆ ☆

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応援ありがとうございます。
by ishikoro-b | 2012-06-22 19:14 | 映画 | Comments(2)
Commented by 団塊のおっさん at 2021-05-06 09:29 x
こんなすてきな映画があったんですね。
映画評はじわっ~と、伝わってきます。
Commented by ishikoro-b at 2021-05-11 00:44
団塊のおっさんさま
過去記事を大切に読んで下さってブログ冥利に尽きます。
人生いろいろあるけど生きるってやっぱり素晴らしい!
地味だけどずっと大切にしている映画です。
また観たくなりました。

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