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太宰のメリイクリスマス

クリスマスはいかがお過ごしですか?
時にはこんなクリスマスはどうでしょう。
太宰治の短編「メリイクリスマス」です。
NHKプレミアムアーカイブスで10月に放送された
「津軽・太宰治と故郷」を見てから
にわか太宰ファンになりました。
35歳の太宰は、津軽半島を巡る旅をして
懐かしい人々と再会します。
その時の作品が「津軽」
そのクライマックスともいえる、母のように慕った
子守り「たけ」との再会のシーンは
太宰ってこんな人だったんだ・・・と
胸に迫り来るものがあり、たまらなく太宰が愛おしく
感じられるようになりました。
太宰のメリイクリスマス_a0223379_2524487.jpg

「メリイクリスマス」は終戦の年の12月、東京が舞台です。
1年3ヶ月、津軽の生家で暮らし、久しぶりに家族を連れて
東京へ帰ってきた笠井。
相変わらずの東京の街で偶然、昔、信頼していた
女性の娘、シズエ子と再会します。
(彼女の服装は、緑色の帽子に真っ赤なレインコート。
オシャレですね、クリスマスカラーです。)
嬉しくなった笠井は、早速お母さんを訪問したいと言うのです。
彼女は同意するものの、次第に元気をなくしている様子。
笠井は彼女が、母親に嫉妬しているのだと自惚れるのです。
そして、次第に笠井自身もまたシズエ子に
惹かれ始めるのですが、これは、とんでもない
笠井の勘違いでした。

シズエ子を笑わせようとする笠井。
母の話をするほど、暗い表情を浮かべるシズエ子。
笠井はそれでも「ひどい嫉妬だ」と、都合良く
勝手に解釈するのでした。

本当は、シズエ子は広島の空襲で母を亡くしていたのでした。
母が死んだことを、言い出せなかったのです。
嫉妬でも、恋でもなかったのです。

すべてを理解した笠井は、シズエ子を街の屋台へ
母の好物だったうなぎを食べに誘うのでした。
「小串を三人前」
「へえ、もうひとかたは?」
「三人いるじゃないか」
ふたりの前に並べられた、小串の皿が三枚。
そして酒がなみなみと充たされたコップが三つ。
なんて優しくて素敵な弔いの仕方でしょう。

屋台の主人を相手に、つまらぬ冗談を言っている奥の酔客が
屋台の外を歩いていたアメリカ兵に向かって叫びます。
「ハロー、メリイ、クリスマアス」

思わず噴出す笠井。
大きな勘違いをしていた自分と
ちっとも変らない自分を重ねたのでしょう。
残りのうなぎの一切れを半分ずつ分けるふたり。
東京は相変わらず、以前と少しも変らない、と
小説は終わるのです。

敗戦後の日本。変るものと変らないもの。
屋台の赤提灯に照らされる、変らないことの普遍性。
哀しくて切ないお話だけれど、心温まる読後感で
ますます太宰が好きになりました。

「メリイクリスマス」は新潮文庫「グッド・バイ」の
短編集に掲載されています。

私からも、メリークリスマス。

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by ishikoro-b | 2012-12-24 02:56 | 文学 | Comments(0)
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