映画 バクダッド・カフェ

久しぶりに1987年の西ドイツ映画「バクダット・カフェ」を観ました。
私が初めてこの映画に出会ったのはVHSになってからでしたが
「バクダット・カフェ」と言えば切ないほど心に沁み入る主題歌
「コーリング・ユー」・・・出だしの部分を頭の中で再生するだけで
砂漠に吹く乾いた熱い風、個性豊かな登場人物、映画の独特な色合いが蘇り
いつの間にか私もバクダット・カフェの客のひとりとなって
カウンターの片隅に座っているのでした。

ネタバレ注意
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ラスベガスへと続く砂漠のハイウェイ。
ドイツ人旅行者夫妻が車を止めてそれぞれ用を足しているところから
映画は始まります。夫の乱暴な振る舞いがことごとく気に入らない妻ヤスミンは
ついに夫に愛想を尽かし、自分のスーツケースを車から下ろして
ひとり砂漠の道を歩き始めるのでした。
夫も妻を探しますが、諦めてヤスミンを置き去りにしてしまうのでした。
水分補給用?の黄色い魔法瓶をハイウェイに残して。

大きなスーツケースを引きずりながらとぼとぼ砂漠の道を歩くヤスミン。
ふと立ち止まると空にはこれから何かが変わるのを予感させるような
不思議な光がなぜかふたつ輝いていて「I am calling you~」
誰かがどこかで出会いを待っているのでした。

ハイウエイ沿いにあるバクダット・カフェ。
ガソリンスタンドとモーテルを兼ね備えたカフェはさびれているけれど
砂漠のオアシスです。
ここの女主人ブレンダは日々の生活に疲れきっていました。
頼りにならない亭主のサル、遊び呆けている娘フィリス、ピアニストを夢見て
ピアノばかり弾いている息子サロモ、そのサロモはどう見ても少年なのに
なぜか赤ちゃんまでいるのですからブレンダは子育てまで抱えて大変。
苛立ちを抑えきれずヒステリックに怒鳴り散らしてばかりの毎日でした。
カフェになくてはならないコーヒーマシーンが故障して、亭主のサルは
そのために街まで行ったのに、そのことをすっかり忘れて代わりに
魔法瓶を拾って来たと言うのですから、呆れたブレンダの怒りは頂点に。
叱られてばかりの亭主はついに家を出て行ってしまうのです。
情けない人生にただただ泣くしかないブレンダ。
しかしカフェのカウンターには拾われた黄色い魔法瓶が守護神のごと
一部始終を見守るように置かれているのでした。

そんなバクダッド・カフェに現れたのは太ったドイツ人女性客ヤスミン。
よく似た境遇のふたり、汗を拭う女と泣く女の出会いでした。
突然現れこんな汚いモーテルに連泊したいという異邦人を
不審に思いながらもブレンダは部屋を貸すことにします。

ヤスミンがモーテルの部屋のドアを開けると、ハイウェイで見たのと同じ
光の絵が壁の正面に。
絵の中のふたつの光がヤスミンを包むように一瞬輝くのでした。
その光はヤスミンとブレンダの出会いを祝福しているかのようにも見え
ふたりの心が解き放たれる日がそこまで来ていることを
暗示しているように思えました。

ヤスミンがスーツケースを広げると出てきたのは夫のものばかり。
中にはなぜかマジックセットまで入っていて、スーツケースを
取り違えていたことにがっかりするのでした。
ヤスミンの部屋に掃除に入ったブレンダは部屋に置かれた男物の服や
髭剃りを見てますます疑心暗鬼に。
そんなブレンダの不信感を余所に、ヤスミンは取説を読みながら
マジックの練習をするのでした。

まじめでキレイ好きのヤスミンはブレンダが買い物に出かけた隙に
勝手にカフェや事務所の大掃除をしてしまいます。
神経を逆なでされてまたブレンダは怒り狂うのでした。

真っ先にヤスミンと友人になったのはブレンダの娘フィリス。
バッハの国から来たヤスミンは息子サロモが弾く平均律クラヴィーアに
静かに耳を傾けます。
そして何よりヤスミンはサロモの赤ちゃんが可愛くて仕方ない。
そんなヤスミンにブレンダは「自分の子供と遊んでな」と
言ってしまうのです。「子供はいないの」と寂しそうにヤスミン。
ブレンダはヤスミンの心を傷つけてしまったことに気付くのでした。
そしてやっとヤスミンに心を開くのでした

最初は太ったおばさんにすぎなかったヤスミンが
どんどんキレイに魅力的になっていきます。
そしてヤスミンのマジックはカフェに奇跡をもたらしました。
ヤスミンのかけた魔法でブレンダの表情にも笑顔が蘇り
カフェに集う人の心を解きほぐしていきます。
それまでの暗いカフェのイメージが好転。
ちょっとしたことでその場の空気がプラスに変わる瞬間が素晴らしいです。
人生なんてそんなもの。ちょっと見方を変えれば幸せはすぐそばに
あったりするのですから。

登場人物はそれぞれみんな何かを抱えているけれど
それは明らかにはされません。
トレーラーハウスで暮らすハリウッド映画の元背景画家だったという
ルディもバクダッド・カフェの常連客のひとり。
カフェに飾られた絵や彫刻は彼の作品で
ヤスミンの部屋の光の絵も彼が描いたものでした。
そうしてみるとこの映画そのものが彼の絵の中の世界のようにも思えます。
やがてヤスミンの魅力に気づいたルディは彼女をモデルにして絵を描きます。
彼が一枚描くごとにヤスミンは洋服を脱いでいき、その過程の微笑ましいこと。
最後は胸をはだけるほどに打ち解けて名画は完成。
その昔、丸亀猪熊弦一郎現代美術館で見たフェルナンド・ボテロの絵を
思い出しました。

テントを張らして欲しいとやってきて、ひたすらブーメランを
飛ばして遊ぶ旅の青年もこの映画になくてはならない存在。
夕焼けの空にブーメランのシルエットが美しいです。

ヤスミンのマジックもどんどん上達しカフェは大繁盛。
全てがうまくいくかに思えた矢先、ヤスミンの観光ビサが
切れていたことがわかるのでした。

ヤスミンのいないバクダット・カフェは気が抜けたように
さびれた以前のカフェに。
しかしある日タクシーが止まり、降りてきたのはヤスミンでした。
ブレンダとヤスミンの再会のシーンが素敵です。

タトゥー彫り師の妖艶な女性デビーは一匹狼的存在。
みんな仲良く家族のようになったカフェは彼女にとって
居心地悪いものとなり「なれあいすぎ!」と言い残して去っていきます。
その辛口な一言が俗っぽくなりそな展開をキリリと引き締めるのでした。

ヤスミンが帰ってきたことでバクダッド・ショータイムは
ますます盛り上がりを見せます。
そんなカフェの様子を覗き見るブレンダの亭主サル。
ブーメランのようにみんな元に戻って映画は大団円。

誰もが不安と寂しさを抱えながら生きる人生の旅人。
だから優しい出会いを探し求めて人は旅に出るのでしょう。
バクダット・カフェはそんな人たちのオアシス。
主題歌「コーリング・ユー」とバッハの「平均律クラヴィーア」が
絶妙に絡み合いながら、俗なる世間にも美しく尊い出会いがあることを
教えてくれているかのような温かい余韻の残る映画でした。

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監督 : パーシー・アドロン
原題 : Out of Rosenheim
製作年/国 : 1987年 西ドイツ
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト(ジャスミン)
   CCH・パウンダー(ブレンダ)
   ジャック・パランス(ルディ)
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by ishikoro-b | 2018-02-24 21:36 | 映画 | Comments(2)
Commented by serendipity_j at 2018-03-03 15:03
ishikoro さま

わたしもこの映画は大好き!

公開されてしばらくたってから、渋い映画ばかりを集めて上映するロンドンの「名画座」(でもスタイリッシュ)みたいなところで、たしか、主演女優のほかの作品『rosary goes shopping』というのと、2本立てて観ました。

それからずいぶん時間が流れましたが、2、3年前だったかwowow であったので、母のとこで録画しておいて、忘れてて(苦笑)、しばらくしてから観ました。内容も忘れたとこがあり、アメリカ人のコーヒーを「色のついた水みたい」(だったか?そんな感じのセリフ)と表現したところで、またまた笑いました。

最近は映画をちっとも観てなくて、ネットで観られる海外TVドラマばかり…でも、新作映画の情報だけは、つい、集めてしまいます(いよいよ、アカデミー賞の発表ですね!)。

おたがい、突然の淋しさに襲われるときがまだまだあると思いますが、たまには、逝ってしまった家族を偲んでそういう気持ちになるのもよし? でも、映画だとか散歩だとか楽しいことを見つけて、人生をいっぱい愉しみましょう!!
Commented by ishikoro-b at 2018-03-04 14:21
serenさま。
やっぱり!!
1月の終わりでしたか東宝系シネマの午前10時の映画祭で
やってるのを見つけて再見。
大スクリーンで大音量で「コーリング・ユー」を堪能しました。 
そして家に帰って録画していたのをまた見返して・・・(暇)
最初見たときは黄色い魔法瓶の中身のことまで
気づかなかったけれど、二度目、三度目になると
確かに「アメリカン」ですよね。
録画だとそんな監督の細かいこだわりを発見できてニンマリ。
「バクダッド・カフェ」ますます好きになりました。

アカデミー賞、授賞式のスピーチは毎回素晴らしいですね。
女優たちのドレスやアクセサリーも楽しみのひとつ。
そしてその隣にいる男性のことも!いよいよ明日ですね。

まだまだ寂しくて胸が張り裂けそうになる日もあるけれど
新しい季節がまた巡って、お互い素敵な春を迎えましょうね。
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