映画 ナチュラル ウーマン

またまた素晴らしい映画に出会いました。
アカデミー賞の外国語映画賞受賞のチリ映画「ナチュラルウーマン」です。
監督はセバスティアン・レリオ。
アカデミー賞の作品賞も監督賞も主演女優賞も全部この作品にあげたい!!
こんなふうに行きなくちゃ、と思わせてくれる美しくも切ない映画でした。
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映画はイグアスの滝の空撮から・・・
力強い滝の水しぶきが、やがてサンティアゴにあるサウナのミストに
つながって、パワフルでエモーショナルな愛の物語が始まります。

サウナでマッサージを受けているのはオルランド、57歳。
妻子とは別居中。テキスタイルの会社を経営しながら
年の離れた恋人、マリーナと暮らしていました。
マリーナはトランスジェンダー。
昼間はウェイトレス、夜はナイトクラブで歌いながら
オペラ歌手を目指しています。
その日はマリーナの誕生日。
オルランドからのお祝いはイグアスの滝の旅行券でした。
幸せそうなふたり・・・
しかし、いつものように愛を交わした後、突然別れがやってくるのです。
ベッドで体調不良を訴えたオルランドは
マリーナがすぐに病院へ連れて行くも動脈瘤破裂と診断され
あっけなく帰らぬ人となってしまうのでした。
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愛する人を失い深い悲しみの中にいるマリーナ。
トランスジェンダーであるがゆえにあらぬ疑いをかけられ
詮索され侮辱され病院や警察から受ける理不尽な扱いは
耐え難いものでした。
それにも増して立ちはだかるオルランドの遺族との確執。
遺族からすればマリーナは夫、父を奪った憎き存在。
ましてや相手がトランスジェンダーなのですから拒否反応は
凄まじいものがあります。
ふたりで暮らした部屋からも追われ愛犬も取り上げられ
葬儀にも参列させてもらえない。
マリーナの願いは、愛する人に最後のお別れがしたい
ただそれだけでした。

心苦しくなるシーンの中にもマリーナを理解してくれる存在も
描かれていて救われます。
声楽の先生もそのひとり。レッスンに訪れたマリーナに
「世間から逃れてきたのか?」と聞きます。
「愛の意味を知りたくて・・・」と答えるマリーナ。
「愛は与えるものだ」と先生。
ありふれた言葉だけれど、人を幸せにするのが愛。
だからマリーナは歌うのです。
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激しい向かい風を受けながら前に進もうとするシーンは
人生の逆境に立ち向かうマリーナを象徴しています。
どんなにズタズタに傷つけられても卑屈になったり泣いたりしない。
卑劣な言葉を浴びせられても叫びも反論もしない。
真っ直ぐ見つめ返すことで怒りを跳ね返すマリーナの目が印象的です。
そんな演出が他の映画と一線を画すところ。
いつの間にかマリーナに頑張れ!と共感している自分がいます。
「お前は何者だ?」と問われて「人間よ」と答えるマリーナ。
性別を超えて自分らしく生きようとするマリーナに
誇り高く美しい人間の姿を見たような気がしました。
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愛し愛された記憶が人を強くします。
劇中、何度か現れるオルランドの亡霊は、彼の愛がいつも
マリーナの傍にあることを物語っていました。
葬儀場に駆けつけたマリーナでしたが追い出されてしまいます。
もう会えないと諦めていたマリーナを
オルランドの亡霊が導きます。そこは火葬炉の前。
亡霊との最後のキスシーンに涙が溢れます。
マリーナは火葬になる寸前のオルランドに会えるのでした。
泣いたり喚いたりすることなくオルランドの手を
そっと握りしめるマリーナ。
マリーナはオルランドの死を静かに受け入れるのでした。

映画の最後はマリーナのオペラ歌手デビューの舞台。
ヘンデルのオペラ「セルセ」からアリア「オンブラ・マイ・フ」の絶唱です。
かつてこれほどまでに心地よい木陰はなかった・・・と歌うアリアの
美しいこと! このやさしい木陰こそオルランドの愛。
マリーナがナチュラル ウーマンで居られる場所なのでした。

何と言ってもこの映画はマリーナを演じるダニエラ・ヴェガの
逞しい美しさと、唯一無二の存在感に尽きます。
自身もトランスジェンダーで歌手というのですから、まさにはまり役。
ウィキペディアによるとヘンデルはこのアリアをカストラートのために
書いたのだとか。現在では主にソプラノが歌うのだそうです。
そういう意味でも監督の「オンブラ・マイ・フ」の選曲に納得。
これもマリーナが歌ってこそのアリアなのでした。

そしてエンドクレジットのバックに使われた
アラン・パーソンズ・プロジェクトの「Time」も本編からの
実に美しい流れです。

イグアスの滝も川となってやがて海に辿り着くのでした。

公式サイトの予告編でマリーナの「オンブラ・マイ・フ」も聴けますのでぜひ。

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監督・脚本:セバスティアン・レリオ
原題:「Una Mujer Fantastica」
英題:「A Fantastic Woman」
製作年/国:2017年 チリ・ドイツ・スペイン・アメリカ
出演:ダニエラ・ヴェガ
   フランシスコ・レジェス
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by ishikoro-b | 2018-04-16 21:31 | 映画 | Comments(0)
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